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 The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
 全史料協近畿部会会報デジタル版
 No.54  2017.8.4 ONLINE ISSN 2433-3204
 第138回例会報告
2017年(平成 29)6月29 日(木)14:30〜17:00
京都府立京都学歴彩館 小ホール


「未来に引き継ぐ公文書−世界に誇る公文書管理の確立に向けて−」
  記念講演  加藤丈夫(独立行政法人国立公文書館長)
  取組報告  中井善寿(滋賀県県政史料室参事員)
  コーディネーター  辻川敦(尼崎市立地域研究史料館長)
  司 会    松岡弘之(尼崎市立地域研究史料館職員)

企画設定意図
 この講演会は、この間部会の取り組みがかならずしも活発ではなく、会員の脱会も続いていることから、機関・個人を問わず多くの会員が求める課題にこたえる内容として設定した。具体的には、公文書管理法が地方自治体に求める条例制定や公文書館事業実施への対応をめぐり、各自治体にとまどいがある現状に鑑み、新館建設や専門職問題に積極的に取り組む国立公文書館・加藤館長をお招きして、国の動向や基本理念などについてお話しいただき、さらに近畿において地道な取り組みを続ける滋賀県の事例を、同県県政史料室の中井善寿氏にご紹介いただくこととした。

広 報
 広報面では、広く会員外にも参加を募り、新たな会員獲得の場とすべく、会員向け告知に加えて新聞・テレビ等の各種メディア向け広報及び、日本アーカイブズ学会、記録管理学会、地域資料研究会、歴史資料ネットワーク、日本史研究会、大阪歴史学会などにも広報協力を依頼した。さらに、6 月8 日開催の全国公文書館長会議会場にチラシを置いていただくなど、国立公文書館にも広報協力をいただいた。
 この結果、本企画は参加者63 人と、部会例会としては近年にない参加人数であった。会員外の参加が約3 分の1 を占めたと思われ、これを機に入会を希望する方もあった。
  全史料協近畿部会例会 国立公文書館長加藤丈夫氏の記念講演   
記念講演
 加藤丈夫・国立公文書館長は、日本の公文書館行政は先進諸国と比較して引き続き発展途上段階にあるとしたうえで、数年後に予定している新国立公文書館建設計画を紹介し、地方を含めた日本の公文書館事業のモデルとなる施設・事業を目指すという考えを示された。また、公文書管理法の運用をめぐってさまざまな問題点や課題が指摘されており、公文書が民主主義を支える基本インフラであり、国民共有の財産・知的資源であることなど、法の理念をあらためて再確認することが求められていると強調された。
 そのうえで、法が求める公文書管理を実現していくうえでは、現在のような諸外国に比して少人数、しかも非正規雇用が多くを占めるアーキビストの抜本的な増員が必要であり、専門性確立のための職務基準書の作成、大学教育等と連携した人材育成、認証制度の実現、これらを通じた専門職としての社会的地位の確立が求められると指摘された。

取組報告と質疑応答
 続いて中井善寿氏が、滋賀県公文書センター・県政史料室の事業を紹介し、公文書管理をめぐる県民・職員向け講演企画及び県内歴史的公文書等担当者会議(市町村職員対象)を毎年開催するなど、情報発信と課題共有に努めておられることを説明された。こうした取り組みのなか、平成29 年度は公文書管理に関する条例案を県議会に提出し、平成31 年度に新たな公文書管理ルールを実施していく予定とのことであった。
 以上を受けて、参加者から質問票を提出していただき、コーディネーターが代読紹介する形で質疑応答を行なった。質問の論点は、公文書を作成する側の職員に向けた研修の必要性やあり方、公文書管理をめぐる自治体の温度差にどう対処していくのか、少人数の職員が実務にあたる地方機関で古文書専門と公文書専門のいずれを優先するのか、展示事業の実情や巡回展方式による国地方連携など多岐にわたった。紙面の都合上個々の質疑内容は省略するが、全体として、地方の実情を尊重しつつ現実的な対処や方策を国として考え、連携を重視しておられることが示された。
 質疑応答の最後に定兼学・全史料協会長(岡山県立記録資料館長)が、今回の講演会に全史料協会員以外も多く参加していることにふれ、公文書館・公文書管理の必要性について広く社会にアピールし、世論としていくことの重要性を提起した。これを受けて中井氏は、滋賀県で公文書館事業が実現していくか否かは広く県民の理解や後押しがあるかどうかにかかっており、メディアや議会への働きかけも含めて努力していきたいと述べられた。また加藤館長は、国立公文書館の専門的人材は呼んでもらえばどこにでも出て行くので、ぜひ声をかけてもらって相互交流していきたい、今日のこの場もそうだが全国の公文書館の連携が何より重要であるとして、その核としての全史料協への期待を表面された。

参加者からの感想とまとめ
 最後に、当日回収した参加者の感想のうち、特徴的な声のいくつかを紹介する。
○この4 月から歴史的文書管理の担当になったばかりで、内容全てが勉強になりました。
 (機関会員=市町村機関職員)
○公文書館やその役割、現在の課題などわかってよかった。(非会員、市町村機関職員)
○専門性の確立がまさにどうなされるのか、非正規雇用を便利使いされている現状に、トップの姿勢をうかがうことができ、
 一筋の光を感じたところがありました。
 都道府県の公文書館、先進的な市町村の事例などを、また課題や悩みなどをおうかがいする機会があれば、
 ぜひ参加したいと思います。(個人会員、市町村機関非正規職員)
○大学や大学院ではまったく公文書についての講義がなかったので、とても参考になりました。 (大学院生)

 こういった声を、今後の例会企画など近畿部会の活動に反映させていくことが必要であろう。そういう姿勢や努力が、この数年やや低調であった部会活動の活性化につながり、ひいては行政や社会のなかで、公文書管理・公文書館事業やアーキビスト専門職の必要性に対する理解と認識を得ていくことにつながっていくのではないだろうか。
     (辻川敦 全史料協近畿部会委員、尼崎市立地域研究史料館長)


第138回例会参加記 
「未来に引き継ぐ公文書―行政機関に求められる公文書管理―」参加記

  北嶋奈緒子(大阪市公文書館 調査員)

 
2017年6月29日、新しくオープンした京都府立京都学・歴彩館にて全史料協近畿部会講演会が開催された。憲法改正や学校法人にかかる事務における記録作成の有無といった問題から、公文書管理への関心が高まる中での開催となった。

 はじめに、国立公文書館の加藤丈夫館長より、「未来に引き継ぐ公文書〜世界に誇る公文書管理の確立に向けて〜」と題した講演があった。
 最初に、国立公文書館の現状として、館の所蔵数や代表的な所蔵資料とともに、最近の取り組みが紹介された。館の一組織であるアジア歴史資料センターでは、日本とアジア諸国との関係を示す資料をデジタル画像化してインターネット公開している。戦前までの資料のデジタル画像化が終了し、2017年4月現在で約3000万画像におよぶという。同センターの取り組みは国内外で評価が高いとのことである。
 さらに、国立公文書館の存在そのものの認知度を高めるために注力しているのが展示業務である。巡回展示や共催企画で国内の類縁機関と連携をとるほか、春と秋に開催している特別展では海外公文書館との連携にも取り組んでいる。海外公文書館との初めての共同企画であった「ケネディ大統領特別展」は、2か月で4万人の来館があり、国立公文書館の存在が急速に広まるきっかけになったという。また、国立公文書館の新館建設に向けた取り組みも始められている。「国立公文書館の機能・施設の在り方に関する基本構想」(「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」報告書による)では、これからの公文書館に求められる機能として、収集・情報提供機能や保存・修復機能、調査研究支援機能をはじめとする7つの機能の強化が掲げられた。収集機能の強化については、保存期間が満了した公文書を受け入れる現在の「受け身」な体制から、積極収集を図るべきとし、政治家や官僚、地域の古老などに対するオーラルヒストリーの実施による収集活動の拡大が例示された。また、修復のための設備の充実・体制強化を図るなど、保存・修復機能を高めることが求められている。最も重要とされたのが調査研究支援機能であり、充実したレファレンスサービスの提供を目指すべきとされた。

 国立公文書館において先進的な取り組みが進められてはいるが、諸外国と比較すると、日本の公文書管理・公文書館は立ち遅れていると言わざるを得ない。2011年に公文書管理法が制定されたことで、公文書の作成から保存・公開までの基本的なルールが定められた。しかし、加藤館長は、現在の公文書管理について、保存期間が1年未満とされた公文書をレコードスケジュールに載せられない点が問題であるとした。現状では、公文書を作成した職員本人が保存期間を決定することから、実質的に、公文書の作成者が廃棄も決めてしまっていることになる。保存期間の長短に関わらず、重要な公文書を未来に引き継ぐためには、公文書の作成と廃棄の決定を別の人間が行う、公文書の評価・選別体制の整備が必要であると指摘した。
  全史料協近畿部会例会 質疑応答とディスカッション  
 公文書管理法の理念を遂行するには、アーキビストの確保と育成が不可欠である。しかし、現状ではアーキビストの専門性が社会的に認められておらず、これが日本の公文書管理・公文書館が立ち遅れている原因の1つとなっている。この背景には、「アーキビスト」に相当する日本語がないこと、アーキビストが何を業務とする人なのか必要なルールが統一されていないことが問題としてある。こうした状況の改善に向けて、アーキビストの遂行業務と必要な能力・要件を明確化した職務基準書を作成し、大学のカリキュラムへの反映等人材育成の基礎資料とし、職務基準書をもとにアーキビストの認証制度を設けることで、アーキビストの専門性・社会的地位の確立を目指すというアーキビストの確保・育成の構想にも言及された。

 次に、滋賀県県政史料室の取り組み報告があった。県政史料室は、滋賀県公文書センター内に2008年6月に開設された。滋賀県公文書センターは主務課等から引き継いだ公文書を管理するのに対し、県政史料室は滋賀県が所蔵する「歴史的文書」の閲覧やレファレンス、有期保存文書の評価選別等の業務を行っている。このほか、簿冊の撮影、資料館や博物館の担当者が情報共有を行う県内歴史的公文書担当者会議の開催も行っている。滋賀県の公文書管理にかかる現状と課題としては、利用請求権が認められていないこと、昭和戦後期以降の公文書の「歴史的文書」への移行が進んでいないこと、県政史料室の位置づけや役割が不明確であることが挙げられた。これらに対し、滋賀県の新たな公文書管理の在り方の基本方向を示すため、2016年9月に「未来に引き継ぐ新たな公文書管理を目指して(方針案)」が策定された。滋賀県の今後の方向性として、「歴史的文書」の利用請求権の確立や、現用・非現用文書のライフサイクル全体にかかる県全体の統一的な文書管理ルールの導入、レコードスケジュールの導入などが盛り込まれている。

 今回の講演会において加藤館長から、作成した公文書について、「重要でないから保存期間を1年未満とすること」と「保存期間が1年未満であるから重要でない」ということは全くの別問題であるという指摘があった。これは、評価選別に携わる筆者としても非常に重要なことであり、現在問題となっている公文書管理の在り方に通じるものと言える。また、「担当者が「公文書を作成している」という意識をもって記録作成を行っているかが疑問」という趣旨にも触れられていたが、そうした点を考えると、公文書を作成する職員に対する研修・指導も不可欠と言えるだろう。
 これからの公文書館に求められる機能にも言及があったが、滋賀県県政資料室の取り組み報告にあったように、現状と課題を把握し、「今できることから」着実に取り組んでいきたい。

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