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The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
全史料協近畿部会会報デジタル版
No.80
2022.10.10 ONLINE ISSN 2433-3204

AtoM実習実施報告

 

2022年(令和4)9月10日(土)
 会場:近畿大学東大阪キャンパス38号館第5情報処理実習室

AtoM実習(2回目)


辻川 敦(尼崎市立歴史博物館・全史料協近畿部会副会長事務局)


 2022年9月10日(土曜日)午後、オープンソースのデジタルアーカイブシステム"AtoM"の実習を実施しました。2021年度に実施した4回シリーズの目録規則等研修第4回における実習に続く、2回目のAtoM体験企画です。

講師:櫻田和也氏(大阪公立大学都市科学・防災研究センター特任講師)
会場:近畿大学東大阪キャンパス38号館第5情報処理実習室
実施協力:近畿大学(教職教育部、冨岡勝教授)、エルライブラリー
参加者:18人

 今回も、近畿大学様の会場提供により、各人端末を操作しての有意義な体験実習となりました。参加者のおひとりである久保庭萌さんに参加記をお寄せいただきましたので、どうぞご覧になってください。
 なお、部会としては、2022年度中に、より実践的な実習企画を第2回目として計画中です。あわせて、実習参加者によるオンライン交流会の実施、オープンソースの実装化に向けたネットワーク作りにもチャレンジしていきたいと考えています。


AtoM実習参加記

久保庭 萌


 はじめに
 最初に告白しておくが、筆者はITには疎く、ウェブサイトやデータベース構築の知識は全くと言っていいほど持ち合わせていない。本実習でも、冒頭でAtoMがLEMP(Linux、Nginx、MySQL、PHP)をベースにしているOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)であるというお話を聞いて、用語の理解が追いつかず、話について行けるか不安に駆られたレベルである。また、近畿部会では昨年にAtoMに関する研究会を全4回実施しているが、これらの研究会に筆者は参加していない。理論などの話を飛ばして、いきなり今回の実習に参加したということになる。参加記を書く資格があるのか甚だ疑問ではあるが、日々資料の整理や目録作成を行う実務者の立場から、あるいはデータベースを利用するユーザーの視点から、今回の実習の感想を述べてみたい。

1、本実習の内容
 まず、実習の前に、講師の櫻田和也氏より「デジタル・アーカイブの実装:AtoMを事例として」と題して、AtoMの概要についてご説明いただいた。講義の内容はおそらく昨年の研究会と重複するものと思われるので、ここでは割愛する。
 実習で使用したAtoMのデータベース(以下、仮に試作版AtoMとする)は、大阪近隣にある複数のアーカイブズ機関で試験的に運用を始めているもので、全史料協近畿部会会員からは、尼崎市立歴史博物館やエル・ライブラリーなどが参加している。今回の実習では、参加者がそれぞれ割り振られたPCを使用し、試作版AtoMに、フォンド、ファイル、アイテムそれぞれのメタ・データを入力し、資料群の階層構造を表現した。また、PDF及びJPGの形式で保存された画像データをウェブ上にアップロードした。

2、試作版AtoMについての雑感
 今回のように、複数館によるポータルサイトとしてAtoMを運用することは、アーカイブズ機関のデータベース導入へのハードルを下げるものとして非常に意欲的な取り組みであると評価できる。筆者の職場もそうだが、資料のデータベースを様々な理由で実装できていない機関は多い。もし職場でAtoMを導入すると仮定した場合、必要なものはおそらく、@IT及びデータベースに関する知識、A予算、Bデータベースに適合した目録の再編成あたりではないかと思われるが、今回の試作版AtoMに参加することができれば、@とAにあまり労力を割く必要がなくなる。そうすると、結局のところ、AtoMに対峙するアーキビストに求められる作業というのは、Bの目録の標準化ということになる。今回のように試作版AtoMを利用し、各機関が試験的にデータを持ち寄れば、目録標準化への具体的な課題が見えてくるだろうし、自館で改めてデータベースを構築する際に課題をフィードバックすることもできる。
 ただし、試作版AtoMについては、管理用あるいは一般公開用のどちらの目的で運用していくのかがわかりにくいという印象も受けた。
 例えば、管理用かつ複数機関のポータルサイトとしてAtoMを運用した場合、管理上の非公開情報(例えば受入経緯や資料の寄託・寄贈者の個人情報など自館の内部情報)が他館からも閲覧できる状況だと心もとない。また、実習後の質疑応答で、東京大学文書館の元ナミ氏から、EAD(Encoded Archival Description)のCSVをダウンロードした際、デフォルトでは「下書き」に設定している非公開情報が入ってしまうとの指摘があり、情報のセキュリティに万全を期していくためにはまだハードルがあるように感じた。
 では一般公開用のデータベースとしてはどうだろうか。この場合は一般の利用者が感覚的に検索しやすいようなインターフェイスの改良が必要ではないかと思う。たとえば、トップページから資料を検索する際には、「アーカイブズ記述」「典拠レコード(個人名、組織名)」「アーカイブ機関」「機能」「主題」「場所」「デジタルオブジェクト」の各項目から検索ができる。しかし、「アーカイブズ記述」という項目をクリックすれば各資料群の情報が閲覧できるという勘所があるのは、ある程度アーカイブズの知識を有している人間だけだろう。

  おわりに
 今回AtoMを利用してみて、ユーザー目線でも便利だと思う点がいくつもあった。一例を挙げると、AtoMでは、資料群をサムネイルのまとまりで視覚的に表現することができる。また、典拠レコードやアクセスポイントを上手くコントロールできれば、検索の利便性が向上する。こうしたことは些細なことかもしれないが、利用する側にとっては非常に便利でわかりやすい仕掛けであり、一般公開を目的としたデータベースの場合、このようなユーザーへの細やかな配慮が成功の鍵を握っているのではないかと思う。ぜひ今後の展開を期待したい。