記録遺産を守るために
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会【全史料協】
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第34回 奈良大会及び研修会
〔来賓挨拶〕
 第34回全国歴史資料保存利用機関連絡協議会全国大会の開催に当たり、お祝いを申し上げると共に一言ご挨拶を申し上げます。このような盛大な会に出席して来賓としてご挨拶し、皆様とお話しする機会が得られたことを、心から感謝申し上げるところであります。
 また、本日、ここに全国各地からご参集の皆様方は、公文書やその他の記録の収集・整理、保存及び利用のための実務や調査研究という、極めて重要な業務に長く地道に取り組んで来られた方々でありまして、日頃のご労苦に対し、心から敬意を表する次第であります。
 今大会においては、「わたくしたちのアーカイブズ−公文書館法20年と現在−」をテーマとして、研修会や研究会が行われると伺っております。昭和62年、参議院議員の岩上二郎先生の提案による公文書館法の制定、そしてその翌年の施行からまさに20年、平成の歩みとほとんど軌を一にして、取り組んで参ったわけでございます。この過去20年を振り返って、今後を見据え、今大会での皆様方のご議論の成果が、皆様方によってそれぞれの立場で活かされることを通じて、わが国の公文書館制度がますます発展していくことを強く期待するものであります。
 折しも、先週の4日、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」最終報告が取りまとめられ、同日、小渕優子内閣府特命担当大臣(公文書管理担当)は、尾崎護座長と共に麻生内閣総理大臣に同報告書を提出されました。その際たいへん前向きなご発言を麻生総理からも頂いたことは、ご報告しておきたいと思います。
 又、翌日、小渕大臣は、私ども国立公文書館の担当大臣として、改めて当館を訪問され、当館の所蔵資料の観覧と最近の運営状況の視察を兼ね、常設展「大正から昭和へ」を熱心に視察されました。さらに、小渕大臣から11月7日の閣僚懇談会において、最終報告書に関する報告が行われ、次期通常国会に所要の法律案を提出すべく作業を進めていくこと、文書管理の徹底と歴史的に重要な文書の移管の促進を図るため、法制化を待たずに取組可能なものについては、近日中に関係省庁による会議を開催し、速やかな対応を求めていく旨の発言がされたところであります。このように、私ども国立公文書館を取り巻く環境は、大きく変化しており、私どもも、この機会を絶好の機会として捉え、公文書館制度の充実を図るために、最大限の努力を行っていくことが私どもに課せられた重要な責務であると考えております。
 単に国立公文書館だけが立派になれば良いということではなく、わが国全体としての公文書館活動あるいは公文書保存文化の更なる底上げを図り、国民の皆様方からの理解と認識を深めていただくため、国立公文書館としても公文書館活動の振興を目指し、今後とも更なる努力を続けていく所存であります。是非、皆様方にも私どもの活動に一体となってご協力いただき、その輪を広げていっていただきたいと念願するところでございます。
 具体的に、国立公文書館を巡る主な動向については、次のとおり、3つの大きな項目に分けてご報告できるかと存じます。

1 最初に、冒頭でも触れましたとおり、「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の最終報告についてであります。
  皆様も既にご存じのとおり、福田前総理の固い決意と指導の下に国の文書管理の在り方を担当する国務大臣が任命され、国立公文書館制度の拡充等について検討を行う「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」が開催されてまいりました。この有識者会議は、3月から10月までの間、12回の会議を経て、最終報告「時を貫く記録としての公文書管理の在り方 〜今、国家事業として取り組む〜」というかなり格調の高い標題をつけたものを取りまとめました。
  本有識者会議に関しては、私もオブザーバーとして参加し、館の現状やこれまでの取組から得られた知見を述べるなど、議論が有意義なものとなるよう努力をしてきたところであります。今回のプログラムを見ますと、有識者会議に参加された後藤先生も講演されるようでございますので、そちらの方でお話をお聞きいただきたいと思いますが、最終報告のポイントは、担当する職員の徹底した意識改革、現用・非現用文書、今まで情報公開法と国立公文書館法とで分かれて管理されていたものを、一体のものとして全体を通じて管理する構成をもった公文書管理法制の創設、府・省を超えた政府全体としての、さらには立法府、あるいは司法府からの文書の移管というようなものも視野に入れた統一的な文書管理ルールの策定とその徹底、体系的な移管促進の仕組み、そのための文書作成時から保存期間満了後の取扱を定める日本版レコードスケジュールの導入、ITの活用と公文書の利用促進、公文書管理に関する調整機能の強化、すなわち公文書管理担当機関の在り方については、文書管理に関する事務を内閣府に一元化し、国立公文書館は、権限と体制を拡充した「特別の法人」とすることが適当であると報告されたところであります。
  本最終報告を受けて、政府において、次期通常国会への「公文書管理法」(仮称)の提出に向け、各種の検討作業が進められることとなります。これを実際に実現しようとすると、各省の様々な意見もあり、政府全体として成案を得るまでには相当の紆余曲折も経るかもしれませんが、福田前総理の退陣という事態はありましたが、政府として「骨太の方針2008」に明記した公文書管理法を制定するという方針は揺るがないものと信じております。当館としても、今後ともただ傍観するのではなく、関係各方面の皆様方の期待に応えるべく積極的に参画し努力していく所存であります。よろしくご支援を頂きたいと思います。

2 次に、当館の活動状況であります。
  わが国の今後のアーカイブズ活動全体の活性化と発展への足がかりとするため、当館の呼びかけにより、昨年5月に「アーカイブズ関係機関協議会」が発足いたしました。この協議会発足に当たっては、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会におかれましても当初からオブザーバーとして参加をいただくとともに、多角的なご協力をいただき厚く御礼申し上げます。
  さて、所蔵資料をできるだけ幅広く、適正に国民の利用に供することが、公文書館の使命であります。当館では、毎年度移管を受けた歴史公文書は、すべて受入から11ヶ月以内に目録を公開し、個人情報等にかかわるものなど特定のものを除いては、原則、資料目録と資料本体の公開を行い、国民の利用を図っております。また、その他に最近では、新聞等でお気づきのことかもしれませんが、当館が保存する戦争裁判関係資料について、従来個人情報の塊であり、本人や遺族の気持ちを考え、非公開として残されていた旧厚生省資料である関係遺家族の援護等を中心とする資料等約1,300冊について、これらの簿冊に含まれる全ての件名を一件ずつ確認し、内容を精査した結果、遺家族家庭状況調査表など極めて個人情報的であり、現在も遺族が存命であるようなもの、13冊を非公開としたほかはすべて公開、あるいは請求があった段階で具体的にどこを墨塗りするかを特定し、基本的には公開するという、要審査公開という区分の変更を完了いたしました。その結果、従来非公開とされていた戦争裁判関係資料約6,000冊の全体としては、完全に公開するもの2,000冊、要審査公開約3,900冊、件名は公開するけれども全く非公開が13冊となり、大きく公開利用の方向に進めて、一応の区切りがついたところであります。公開資料の中には、昨年来のこれらの作業により公開が進んだ資料等を基に、新聞記者が調査解読した結果、去る8月中旬には日経新聞あるいは朝日新聞等でシリーズのような形で、こういう資料の公開報道がされたところであります。このような面で、私どもの館のアーキビスト・専門官が、どういった仕事をし、どういった取組をしたならば、国民の期待に応えられるのか、どういった部分について注意を払っていかなければならないか、を実際に実践した上で、マス・メディアだけではなく、国民に喜ばれるものができたことは非常に良かったと思っております。
  今年は、国際公文書館協議会、いわゆるICAが昭和23年にUNESCOによって設立されてから、ちょうど60周年を迎えるということで、ICAの記念日である6月9日を「国際アーカイブズの日」と指定しました。これを記念しまして、6月9日には、今日ご参加の多くの方々にも御出席いただきましたが、全国の公文書館館長、「アーカイブズ関係機関協議会」の構成員を始めとするアーカイブズ関係者、企業等の関係者、マスコミ関係者などが一堂に会し、極めて盛大に「国際アーカイブズの日記念講演会」シンポジウムを開催することができました。その際、「今後我々は、日本のアーカイブズ文化の発展のために全力を尽くし、さらに、国際的な協調のもとに、世界全体のアーカイブズの発展に貢献していくことを誓うとともに、広くすべての国民に対しアーカイブズの機能と役割について認識を深めていただくよう強く求める」旨の第1回「国際アーカイブズの日」記念日本大会アピールが採択されました。これを機に、「国際アーカイブズの日」ポスター13,000枚、ちらし153,000枚を作成し、皆様のお手元にも届いたのではないかと思いますが、国や地方自治体その他関係機関へ配布して、各々の協力の下に趣旨の周知に努めることができました。私どものこのような取組が、アーカイブズ関係機関協議会の発足とも相まって、わが国関係者の結合の強化に資し、今後の更なる発展につながる基盤を作れたものと喜んでおります。これからも、毎年6月9日を記念日として認識の高揚、事業の取組をしていきたいと考えておりますので、よろしくご協力を頂きたいと思います。

3 次に、国際交流についてであります。
  第16回国際公文書館会議ICAクアラルンプール大会世界大会が去る7月にマレーシアで開催されました。わが国から私、高山理事、石井アジア歴史資料センター長ら当館関係者、及び各地方公共団体の方、大学の先生なども含め40名を超える方々が参加いたしました。当館主宰で、三セッション、一ワークショップを主催しました。それらの中でも特に中国、韓国の公文書館からも講師を派遣してもらい開催したEASTICA東アジア地区のセッション「電子政府化の進展と電子記録管理」では立ち見も出る盛況となり、カナダのイアン・ウィルソンICA会長の閉会式での挨拶の中で、大会の最も優れた成果の一つとして挙げられました。
  また、一つご報告しておきたいのは、修復ワークショップでは定員の20名を大きく超える希望者があり、世界各国から28名まで実習者として受け入れ、好評を得ました。我が国の和紙と正麩糊と刷毛で行う修復技術に対して、世界各国が非常に関心と驚き、敬意を持って受け入れてくれたことについて、私どもの修復担当者もたいへん自信を深めましたし、ある意味でいうと日本の技術というのは、皆様方が普段日常行っておられることでも、これが世界の中で十分に通用し、評価を得られるということの一つの現われではなかったかと思います。これからも是非、日本で行っていることを胸を張って世界に発信し、お互いに学び合い、お互いに評価し合うというような交流の取れる形を作っていきたいと思っております。
  是非これからも皆様方の国際会議への参加についても前向きにご検討頂きたいと思います。
  最近の事例でいいますと、オマーン国というアラビアの小さな国でございますけれども、国立公文書館制度の創設準備のため、4月にオマーン国遺産文化大臣ハイサム殿下の来館がありました。公文書館はたいへん小さいけれども、非常に評価を受けました。これを契機に5月には上川公文書管理担当大臣(当時)がオマーン国を公式訪問し、協力を約束するなど両国の相互交流が進展しました。先月10月20日には、オマーン国立公文書庁長官一行が来日し、電子文書管理に関する日本の取組、当館における文書の保存、復元、マイクロフィルム化等について調査をいたしました。実施に当たっては、日程調整を含めオマーン国立公文書庁の要望を踏まえ、当館が積極的に対応をしたところであります。

 当館を巡る動き等は以上のとおりですが、これまでには考えられなかったほどのペースで、日本の公文書館活動に対する関心というのは世界的にも高まってきております。そのような中、世界からも知識・技術を受け入れると同時に、我々の方からも的確な対応を図っていくことも必要だと思います。そのような意味で、この全国歴史資料保存利用機関連絡協議会は、またとない機会であると思います。この中で皆様方がお互いに何ができるか、何をしなければならないかを充分にお話いただいて、わが国のアーカイブズ文化の発展と定着に寄与するように努めて頂きたいと思います。私ども国立公文書館も国の中核機関として率先して努力して参るつもりでありますし、今、徐々に出てきている地域の歴史史料を保存するための自治体の公文書館の整備等についても、国立公文書館としてできることがあれば何でもいたしますので、おっしゃって下さい。是非、お互いに手を取り合って、国民のため、社会のために、前へ進んでいきたいと思いますので、ご協力を頂きたいと思っております。
 最後になりましたが、皆様方の一層のご活躍と全国歴史資料保存利用機関連絡協議会の益々のご発展を祈念し、私の挨拶とさせていただきます。